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摂津市の児童虐待対応強化について2021.11.12現在

Ⅰ 摂津市の児童虐待対応の強化

 

 2021年11月12日時点において、摂津市は8月に起きた児童虐待死事件の対応として、担当課である家庭児童相談課の職員を1名増員し、スーパーバイザー2名を確保するなどの体制強化を行い、児相や警察との協議も進めています。

 まだ大阪府検証専門委員会の報告前(2022年1月予定)ですが、市としても当該事件の対応を踏まえ、対策できることを進めています。

 

 


Ⅱ 事件について

 

 本件の児童虐待死事件については、以下の通りです。(新聞・ニュース等の公開情報で作成)

 

〇2018年10月、新村桜利斗(おりと)ちゃんと母親が摂津市に転入。以前住んでいた自治体からの引継ぎで、「ネグレクト(育児放棄)疑いの家庭」とされ、転入当初から月2回程度の面談を行っていた。

 

〇2021年5月、母親と松原容疑者の同居が始まる。

 

〇2021年5月6日、母親が「彼氏(松原容疑者)が子どもを叩いた」と相談し、市は母親と松原容疑者に面談対応した。

 

〇2021年6月、母親の知人女性から市へ虐待等の情報提供があった。市は母親との面談を行い、その応対を踏まえ一時保護などは行わなかった。

 

〇2021年9月22日、桜利斗ちゃん(3)が8月31日に全身やけどで死亡した件で、母親の交際相手の松原拓海(たくみ)容疑者(24)が殺人容疑で逮捕された。(関連記事

 

〇2021年9月28日、森山一正市長は記者会見を開いた。市長は、市の対応について「自治体としてできる限りの対応はしてきた。ただ権限や人員で限界があった。」と説明。今後、府の検証委員会での検証を待つとともに、市でも出来ることは対応して再発防止に努める方針とした。(市長コメント

 

〇2021年10月6日、市や府児童相談所の対応を検証する府の児童虐待事例等点検・検証専門部会の初会合が開かれた。市の虐待に対するリスク評価の甘さを指摘する意見などが出た。複数回の会合を開く、2022年1月に報告書をまとめる予定である。

 

〇2021年10月27日、、警察は、桜利斗ちゃんが死亡する数カ月前に、顔面を殴打するなどの虐待をしたとして、暴行容疑で桜利斗ちゃんの母親、行歩寿希容疑者(23)を逮捕し、傷害と暴行の両容疑で松原被告を再逮捕した。(関連記事

(その他、詳細はニュース等でご確認ください。)

 

 

 


Ⅲ 摂津市議会2021年第3回定例会

 

 2021年10月28日、29日の摂津市議会第3回定例会一般質問において、児童虐待に関して多くの議論が交わされました。(関連サイト

 

 その議論でやり取りされた内容等について一部を抜粋・紹介します。

 

 1,一時保護が出来なかったことについて

 要保護児童対策地域協議会での大阪府吹田子ども家庭センター(児童相談所)と市等の会議において、子どものあざなどの兆候があったものの一時保護という判断には至りませんでした。

 これに関して、市は母親と家庭訪問38回を含む91回の面談を行っている中で、その判断には至らず、合わせて母親との信頼関係構築にも努めていたと答弁しました。5月に松原容疑者が子ども叩いた際にも、面談を行ったうえで、一時保護等にはなりませんでした。児童相談所も市の判断・方針を容認していたとのことです。

 結果として対応の甘さという点では、私は会えていることからくる過剰な安心感が要因ではないかといいう指摘を行いました。

 

2,情報提供者の対応について

 情報提供者からの情報対応に関して、複数の部署に虐待に関する相談・情報提供が行われていました。ただその取扱いについては、個人情報保護の観点からその詳細の答弁はできないということでした。

 ただ家庭児童相談課は、母親からの聞き取りで、彼女が松原容疑者との同居を否定したことで同居認定はせず、虐待に対しても一時保護には至らない、と判断しました。また子ども園での情報収集も、コロナ禍で休園という事態も重なり、十分にできなかったと答弁しています。

 市の判断について、主に母親の情報に頼り過ぎたことに関して、各議員はその対応の甘さを指摘しました。また庁内全体に正常バイアスがかかり、そのような事は起こるはずがないと考えていたのではないかという指摘が他議員から行われました。

 

3,組織体制について

 事件時の市の組織体制として、担当である家庭児童相談課(12人)のうち児童虐待の担当は5人(正規職員3人・配属期間は2~3年、会計年度職員2人・配属期間は1・6年)で、R2年度は449件の児童虐待対応(今後もこの傾向が続くと予想される。)を行い、1人あたり約90件を受け持つこととなっていました。

 児童相談所では1人あたり約60件対応ということであり、物理的限界により対応が疎かになってしまうことを懸念し、担当職員の少なさを多くの議員が指摘しました。また、配属期間が短いことで経験が不足し、専門性に欠けるのではという指摘もありました。そのような体制では、難しい状況において適切に判断できないのではと疑問の声が上がりました。

 市は議会答弁で、対応力の強化のために、事件後、職員1名を増員し、また専門性を持つ有識者に市のスーパーバイザーとして就くよう調整していると答弁しました。

 

4,再発防止の取り組みについて

 1~3の議論も踏まえて、市長は議会で再発防止を徹底すると答弁しました。

 市が議会にて、取り上げた対策は以下のものです。

① 市の虐待等防止ネットワーク会議において今後の体制の議論を行い、有識者のスーパーバイザーの導入を検討している。(内定している。)

② 体制強化のために、児童虐待担当職員を1名増員した。

③ 要保護児童対策地域協議会で効率的な運営を行えるよう、大阪府吹田子ども家庭センターなどと協議する。

④ 警察署との状況共有についても協議に向けての情報交換を開始。などです。

 

 


Ⅳ 議会での再発防止に向けた提言

 

 私も同一般質問において、児童虐待を取り上げました。ただ、質問順番が14番目であり、多くの議論が行われた後であったため、提言のみを行いました。その内容は以下の通りです。

 

○松本議員

「次に、地域共育での孤立家庭防止についてですが、私は児童虐待防止の観点で、以前からも児童虐待につながる孤立家庭を防止するために地域で共に育てる地域共育について提言して参りました。

 

 おりとちゃんのご冥福をお祈りするとともに、また非常に残念な思いであります。

 

 なお多くの議論が交わされた為、地域共育の観点も踏まえながら児童虐待防止について意見・要望を述べさせていただきます。

 

 10月27日夜のNHKニュースで、おりとちゃんの母親逮捕が報じられていましたが、そこに出演していた教授は、市は母親と会えていることからくる過剰な安心感があったのではないかという指摘をしていました。

 その指摘を踏まえれば、平成30年の市内転入から家庭訪問38回を含む91回もの面談を行い、信頼関係構築を図るなど、しっかりと見ているぞ、孤立させないよというアプローチを行い虐待防止につながっていると考え、まさかそのような状況で卑劣な虐待・殺人が行われることは予想しづらかったのではないでしょうか。

 その為、情報提供者の必死の訴えよりも、これまでの信頼関係を壊さぬよう母親の言葉を優先することとなったのではないでしょうか。

 もしこれが子どもと一度も会えない、母親から面談を拒否されるという場合であれば、状況は変わっていたのでしょう。

 

 本事案を踏まえ、市は自ら隠蔽を図る、自ら孤立化を図る家庭への対応力が不十分であったと同時に、過剰な安心感と表現されたように甘さ、児童虐待への危機意識が庁内全体で低かったのではと考えます。

 情報提供者の各課の対応、事件発生後の多くの市内外からの批判があった報道対応の不十分な姿勢でも見て取れます。

 児童虐待は犯罪であり、子どもは虐待を受ければ死に至らないまでも脳にダメージを受け、その後の一生を左右します。子ども達の為に危機意識を高め庁内全体で取り組まなければなりません。

 

 担当職員の増員、スペシャリストの配置は当然のこと、常に最悪を想定し行動すること、注意案件は必要により部局横断対策チームを作り、多角的に情報収集を行い、かつ情報提供者の情報を有効に活用して、事実関係を正確に把握し、速やかに児相へ上げる体制を整えること、そして、市一丸で地域共育のネットワークの核となるよう取り組み、本市において、このような悲惨な事件が二度と起こることのないよう、検証・再発防止策を徹底することを強く要望致します。」

 

以上の内容で、市に提言しました。(会議録

 

 本事案を踏まえ、児童虐待においては子どもの命を守るために、常に疑いを持ち最悪の場合を想定したリスク管理の強化が必要です。

 特に潜在化・隠ぺいを図る加害者等を確実に判定し、兆候があれば迅速に市や府、警察からの注意・警告等を行い、予防を徹底していかなければなりません。

 そうしたリスク管理強化により情報提供者や子ども自身の情報等がより有効に活用されるでしょう。

   

 


Ⅴ 今後について

 

 議会後も対応策等について担当部署と意見交換を行っています。

 

 市は、虐待事案はケースバイケースであり、それぞれの案件に適切に対応できるよう相談体制の質と量の強化を行い、また実効性ある会議運営や警察も含めた対応策の選択肢を増やすことを検討・協議を進めています。

 

 相談体制の質と量の強化については、冒頭の「Ⅰ」で記載したように市は、議会後の11月上旬にスーパーバイザー2名を確定し、組織体制の強化を図りました。

 具体的には、摂津市要保護児童対策地域協議会に児童虐待として台帳に登録されているケースにかかる対応(支援)方法、関係機関の連携等の点検において、外部の専門職による助言、指導(スーパーバイズ)を受け、困難事案、複数回の通告受理ケースなどのリスク管理を強化し、適切な管理につなげるというものです。

 なおその2名については、弁護士及び児童虐待対応に経験豊富な専門家(臨床心理士)となります。

 

  そして2022年1月の検証専門部会の報告を受けて、さらに対応することとなるでしょう。

 

  悲劇を繰り返さぬよう再発防止の徹底を、議会からもしっかりと取り組んで参ります。

 


関連ブログ等


(追記 2022年4月1日)

(追記 2022年7月6日)