経済格差を超え、幼児期の語彙力が将来を決める(就学前教育の重要性)


Ⅰ 語彙力向上・漢字での教育の実践

 2021年1月~3月での10日間(1日1時間)、認定こども園 KENTOひまわり園で、ボランティアの市民の方(Sさん)による語彙力向上の取り組み・「漢字での教育」が年長の5歳児(13人)のクラスで行われました。

 この取り組みは、暗記能力が優れている幼児期に、語彙力をより効果的に伸ばすための教育になります。

 「漢字での教育」※については、これまでもブログでも取り上げていますが、Sさんの取組みでは、漢字かな交じり絵本の読み聞かせだけでなく、しりとりやカルタを行うなど、子ども達が楽しみ、自発的に語彙力を向上する工夫を大いに取り入れたものでした。

(※これはあくまでも読んで認知できれば良いというもので、漢字を書かすというものではありません。)

 その結果は、私たち大人たちの予想以上のものでした。子ども達13人、

全員の語彙力が大きく向上したのです。

 

 さらに驚いたのは、語彙力向上と同時に自己肯定感の向上も見られたことです。今まで分からなかったことが理解できたことで、子どもにとって大きな自信が付くようになり、そしてもっと学びたい、知りたいという意欲を湧かせたのです。

 語彙力向上→自己肯定感向上(知識欲向上)→語彙力向上という成長への好循環が見られたのです。

 

 ただ、課題も幾つか見つかりました。その最も大きな課題としては5歳児の中でも語彙力に大きな差があったという事です。カルタやしりとりなどで、その差が大きく見られ、語彙力が低い子が泣いてしまう事が多々あったということです。

 しかし、幸いなことに、個々の差はあるものの全員の語彙力が向上し、泣いていた子でも最後には、もっと学びたいという気持ちを抱くくらいに成長したとのことです。

 

 KENTOひまわり園での、「漢字での教育」の取り組みは、多くの教訓・成果を得るものとなりました。

 また、Sさんはこの取り組みをまとめた素晴らしいレポートを仕上げられました。このレポートを活用し、教育委員会や市内各園での語彙力向上の取組みを発展させねばと考えるところです。

 この取り組みは、摂津市の課題である就学前教育の発展に向けての試金石となります。

 就学前教育での効果的な取り組みを見出した ということです。

 

 改めて、就学前教育の語彙力向上の重要性について、どのようなものか紹介します。

 


Ⅱ 学力格差は幼児期から始まるか

 語彙力向上に係る就学前教育について調べていると、その重要性を示す内田伸子先生等の論文・本に出会いました。

 

 学力格差は幼児期から生じている こと、また経済格差を幼児教育で克服できることが、記述されています。

 内田伸子先生の論文「学力格差は幼児期から始まるか?」では、幼児調査に参加した5児を小学校1年の3学期まで追跡したところ、幼児期の語彙能力と読み書き能力と語彙得点は小学校の国語学力に因果関係を持って影響すること、また語彙の豊富さが学力基盤力であることが明らかになった。という記述があります。

 そして同論文の結論では、

経済格差は超えられる

① 乳幼児期には絵本の読み聞かせを十分に行い、小中学校では読書を勧め,親子で図書館通い。

② 学校での出来事、ニュース、進路、悩み事等なんでも話せる家族の団欒(会話)を大切に。

③ ゲームやスマフォ、ネットは制限し、五感を働かせる遊びを通して直接体験を積み、朝食習慣を身につけること。

 このようなかかわりの中で、子ども自身が自律的に考え判断・工夫する力が育ち、探求心が育まれ、次期教育指導要領の目玉として掲げられた『能動的な学び手』へと成長していくであろう。」と、まとめられています。

 

 また同論文では、子どもの学力格差の原因は、経済格差ではなく大人の養育や保育の仕方が媒介要因であると述べられています。例えば、「共有型」しつけ(子どもとのふれあいを重視し、子どもと体験を享受・共有する)を行う家庭は、「強制型」等と比較して、所得の高低にかかわらず、蔵書も多く、親も本好きで乳児期から子どもに絵本の読み聞かせを行い、その子どもの読んだり書いたりなどのリテラシー得点・語彙得点はともに高かった。と記述されています。

 

 この論文から、幼児期での語彙力の豊富さが学力基盤力となること、そして適切な保育・教育の取り組みで、経済格差を乗り越えられることが分かります。(論文リンク【幼児期から学力格差は始まるか - 経済格差を超える要因の検討 ー】)

 

 人生の基礎は3歳までの言葉環境でつくられる!

 次に、「3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ」という、アメリカで研究された幼児教育に係る本を紹介します。

 

 同書では、研究において、3歳の終わりまでに聞く言葉の数が、専門職についている家庭の子どもが、4500万語の発語を聞くのに対して、生活保護世帯の子どもは1300万語であり、3200万語の格差が生じていること、そして0歳~3歳の終わりまでに聞く言葉の数の差が、その後の子ども達の語彙、IQ、学ぶ力、成し遂げ、成功する能力(認知・非認知能力)などにの大きく影響することが記載されています。

 その成功する能力を身に付けられる理由として、言語は生後最初の3年間、語彙を増やし、会話のスキルを育てる助けになるだけでなく、社会的・感情的・認知的発達の基礎作りも促すものである。という事だそうです。

 

「人生の基礎は3歳までの言葉環境でつくられる!」というように、 爆発的な神経のつながりなど、脳の発達が著しい0~3歳児までの間、言葉を学ぶ力は桁外れの大きさとなります。この二度と訪れることがない大切な時期を、適切に行うことが子ども達の将来を左右します。(参考リンク【3000万語の格差を知ってますか?乳幼児期に語彙力に差がついてます】)

(なお同書には、豊かな言葉環境を幼い子どものために作る具体的な取り組みについても記載されています。)

 この事は、KENTOひまわり園での取り組みからも十分に推測できます。

 5歳児間で大きな差が既に生じていた事実を踏まえ、その子ども達が乳幼児時期にどれくらいの語彙に触れてきたのか、というところで差がついたものと考えられます。

 

 ただし、この内容は決して5歳児への語彙力の向上の取り組みが手遅れだ、という事を言いたいのではありません。むしろ「漢字での教育」は、劇的な語彙力向上を促し、できる子は更に向上し、できなかった子も成長を促し、全体を向上させることに成功しているからです。

 

 また、ニンテンドーDSの【脳トレ】で有名な川島隆太監修の「本の読み方で学力が決まる」によると、語彙力向上の取り組みである読み聞かせ・読書活動を行うことで、子どもの脳を活性化し、神経ネットワークを太くし、結果として頭の回転が速い、頭の良い子に成長します。という事が記載されています。この事は、前回の2月15日のブログでも読み聞かせが重要であると記述しています。

 

 幼児期の語彙力が将来の学力を左右する。

 以上の研究論文等から、幼児期での語彙力が学力基盤力となり、将来の学力を左右することが示されました。それは経済格差を乗り越えることができます。

 まさ就学前教育(園での取り組み)での語彙力向上の取り組みの重要性を示すものとなります。

 また就学前教育に焦点を絞っているものの、乳幼児期の家庭環境において、どれだけ言葉豊かな環境の構築に取り組まれているかが、円滑な就学前教育の分かれ目となることは言うまでもありません。

 

 その点、より効果的な取り組みを、園と家庭とが連携することが望まれます。それには情報共有が必要であり、公として必要な情報を提供するための講演や資料提供など、いわゆる親学習も必要になるでしょう。

 

 次に、摂津市としては、就学前教育についてどう考え、どう取り組もうとしているのでしょうか。

 


Ⅲ 摂津市の課題・小学1年生での学力差

 就学前教育は非常に重要と認識している。

 

 就学前教育はその言葉の通り、教育です。教育とは小学校から始まるものではなく、幼児から始まっているのです。これは当たり前の事ではありますが、それが具体的にどう公での教育で意識されているのか、ご存知でしょうか?

 教育委員会は「就学前教育実践の手引き」を作成し推進していますが、教育委員会としてリーダーシップを発揮して行っているとはまだまだ言い難い状況です。(コロナ禍の影響もあります。)本市議会でもようやく議論が始まったばかりなのです。

 

 では、なぜ就学前教育の重要性が認識されつつあるのでしょうか。

 

 本市では学力向上に取り組んでいるところですが、実際のところ、小学1年生の段階で全国平均より低い現状があり、既に差が生じています。(上図・R2年摂津市学力定着度調査・R2年度は全国平均となりました。)そして、その差を中学3年生まで埋めることに相当な努力が必要になります。

 学年が大きくなればなるほど、一度ついた学力の差を縮めることは難しい 現実において、

 

 早期の対策が必要とされます。その対策が、就学前教育の充実なのです。

 実際のところ市内の各子ども園・幼稚園では、それぞれの取り組みで就学前教育が実施され、各園ともに自信を持って行っています。よって、小学生の学力の現状を踏まえれば、

 

 就学前教育を市全体として更に発展させる事が求められる。

 

 と、言えます。そのため教育委員会は、就学前教育の取り組みを推進させるべく、今年度から就学前教育担当参事を新たに設置したところです。

 今後、各園の自主的な取り組みを尊重しつつ、市として何をどう発展させていくのか。当然ながら学力向上に向けた学力基盤力を養うということは言うまでもありません。

 そのうえで、方向性を示すためのテーマを設けることが必要となります。テーマとしては、地域と支え合いや親学習、そして語彙力向上の取組みなど複数が挙げられるでしょうが、最も力を入れるべき重点的なテーマが必要でしょう。

 

 ただし、摂津市の課題は小学1年生時点での学力差だけではありません。自己肯定感の課題もあります。KENTOひまわり園での取り組みでは、自己肯定感の向上に関しても触れられています。

 


Ⅳ 自己肯定感と学習意欲との関係

 そもそも自己肯定感とは何でしょうか?

 

 人事労務用語辞典によると「『自己肯定感』とは、自分自身を受け入れ、尊重し、ポジティブに捉えることができる感情のことをいいます。他者と比較して何ができるか、何を持っているかなどで優劣を決めるのではなく、評価や成果の有無にかかわらず自分軸を持ち、そのままの自分を受け入れます。自己肯定感は、恐れや不安といったネガティブなモチベーションではなく、信頼や安心感をベースに前進する力を与えます。」と記載されています。リンク】

 また、この自己肯定感は学習意欲ともつながっています。

 教育委員会は、私の2020年第3回定例会 一般質問において、「主体的に学習に取り組む態度を育むために、自己肯定感と学校以外の学習時間は指標となると考えております。教育委員会としましては、誰かの役に立っている、認められていると感じる自己有用感に裏づけられた自己肯定感を大切にしたいと考えております。子どもは、自己有用感の高まりにより、社会の一員として自覚し、感謝の気持ちを育み、学習意欲が向上していくと捉えております。」と、答弁しています。

2020年第3回定例会一般質問】 

 

 しかしながら、本市の児童は 自己肯定感が全体として低い 傾向があります。(右図・R2摂津市学力定着度調査)

 学力向上だけでなく、自己肯定感向上もまた各小中学校で取り組んでいますが、これもまた就学前教育から取り組んでいく必要があります。学校現場での話を聞くと、子ども達は点数が低ければ自信を無くし、自己肯定感が下がっていく現状があるということです。勿論、逆の事も言えます。学力と自己肯定感の向上はセットで取り組まなければなりません。

 自己肯定感の向上は教育では不可欠な取り組みです。

 さきほどのKENTOひまわり園での取り組みで、語彙力が上がると自己肯定感も上がることが示されましたが、幼児たちは成長の中で、様々な成功体験を通じて自信を持ち、また保護者等にその努力を褒められることで、自分は努力すればできるんだという自己肯定感を築いていきます。(なお自己肯定感は非認知能力です。)

 それら様々な体験の中でも効果的なのが語彙力向上の取り組みと考えるべきでしょう。学んだことがすぐに使え、自信につながること、自分の思いを伝える、親とコミュニケーションを円滑に取ることができる等に繋がるからです。

 就学前教育の語彙力向上の取り組みが、自己肯定感の向上に貢献する。 

 

 この事は、本市課題解決に向けての大きな一助となることは言うまでもありません。

 


Ⅴ まとめ

 KENTOひまわり園等での取り組みと各種研究論文等、そして本市の課題を踏まえ、就学前教育の重要性(学力基盤力を養う)はしっかりと認識できます。

 そして、就学前教育の発展への重点テーマもまた明らかになったものと考えます。それは、

 「語彙力向上の取り組み」

 語彙力向上の取り組みが、本市として就学前教育での発展に向けての重点テーマとして最も相応しいでしょう。これしかありません。

 幼児期における語彙力向上が豊かな学力基盤力となって、将来の学力向上に繋がり、また日々の語彙力向上での自己肯定感向上が成長をさらに促進させます。認知・非認知能力いずれも高めることができるのです。

 

 語彙力向上の取り組みは、先ずは市として重点テーマとして掲げ、様々な手段がある中で、具体的教育要領等(読み聞かせの推奨など)を例示することが必要です。その上で、各園の独自の取り組みを促し、意見交換会を開催するなど、より効果的な施策を研究・普及させることが求められます。(キャッチフレーズは豊かな言葉環境の創造など)

 

 その点で、KENTOひまわり園での語彙力向上・「漢字での教育」の実践は良い事例を示すものとなりました。漢字での教育が語彙力を劇的に向上させること、そして自己肯定感の向上に繋がったのですから。

 これは、他園でのモデルケースとなりえるものです。

(漢字での教育については、2月15日のブログで記載しています。)

 

 また「親学習」も重要です。

 これらの取り組みは家庭での協力も必要になるからです。

 

 就学前教育の前段階である乳幼児での取り組み、即ち0~3歳での豊かな言葉の環境を作ることも重要な取り組みになるからです。当然ながら、就学前教育でも家庭の協力は重要です。

 

 ただ、本市では共働きや一人親などで、教育に関心があってもあまり時間を割けない事情がある家庭が多いのも事実です。そのため、公が家庭に適切な情報を提供し、効果的に取り組んでもらい、子どもの成長を促すことが求められます。それが親学習です。

 

これらの取り組みが、本市の学力課題を解決することに大きく貢献することでしょう。

将来を担う子ども達のために、語彙力向上を市全体で取り組む。

議会でしっかりと提言して参ります。


関連リンク

参考文献

「3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ」ダナ・サスキンド著、掛札逸美訳、明石書店2018.5.15

「本の読み方で学力は決まる」 川島隆太監修 青春新書 2018.9.15