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就学前教育での語彙力向上へ、漢字教育・漢字遊びの事例


Ⅰ 概 要

 

 市内こども園にて、1回1時間を基準に週1回あるいは月1回、もしくは不定期で、主に5 歳児の園児に語彙力向上につながる漢字での教育を実践された事例があります。 

 

 この事例では、「漢字は読めればいい書けなくてもいい。何なら意味さえ分かれば良い。」という観点で行われ、漢字での教育というよりは、園児たちが楽しみながら、遊びながら自然と覚えていく、漢字遊びが言葉としては適切と思われました。

 

 この漢字の遊びが実際にどのようにされたのか具体例を紹介します。是非、ご参考下さい。

 

 

 


Ⅱ 各種取り組み

 それぞれの取組み内容について紹介します。

 

1 漢字で書いた名前のカードを見せながらの出席取り

〇実施の狙い

 一番身近な自分の名前はもちろん、すでにフルネームを知っていて仲の良いお互いの名前も同時に見ていくことで、園児に一気に漢字親近感を持たせることが狙い。

 

〇概 要

 上記写真のように、園児それぞれ、漢字で書いた名前のカードを見せながら出席取りを行う。また、カードをシャッフルして順不同で見せることで、名前とその漢字に注目してもらえるよう考慮している。

 

〇成果・課題

 クラスメイトの名前はとても興味が沸くようで、園児一人ひとりカードを出すごとに、「カタカナの〇や」、「〇と似てる」、「〇〇の●●や」、「〇の字がある」など、それぞれの漢字への感想が飛び出し、毎回盛り上がる。また、シャッフルして見せたのは、狙い通り成果が大きかった。

 ただ、盛り上がり過ぎると、出席を取る時間が掛かるようになってしまう。

 また、取り組みを見られた公立園で園長を長く務められた先生は、「名前は漢字で書いて良かったのね。そのほうが私達も見やすい。」と言われた。

 

 

 

2 漢字かな交じり文の絵本の読み聞かせ

〇実施の狙い

 話の筋と絵と声を合わせながら読んでいくことで、漢字を無意識的に頭に入れさせやすいことと、絵に併記してある拡大した漢字を指差すなどしてさりげなく強調しながら読み聞かせていくことで、園児に負担を掛けること無く、言葉(漢字)自然に習得させるようにすることが狙い。

 

〇概 要

 漢字かな交じり絵本(必要により見やすいように工夫)を使い、園児に読み聞かせを行う。

 事前に絵本の中の単語や文を抜き出しプリントにしたものを作っておき、帰りに配ることで、一語でも二語でもあとから思い出しやすいようにしている。

 

〇成果・課題

 園児全員が集中して話を聞き、見ることが出来、効果がある。例として、10冊の漢字かな交じり絵本を通して、園児が元々知っている言葉の漢字は、殆どがすぐ読めるようになった。繰り返し行うことで、効果が上がる。

 課題としては、コロナの関係で距離を取る為やや見づらかった子がいたことが挙げられる。

 

 また、この取り組みでは1、2回くらいでは効果はやや低い。それは流れる形で文字と言葉を伝えるので、特に園児が知らない言葉は記憶に留まりづらい。そのため何度も繰り返して、園児たちに記憶させることとなる。

 もしくは、園児が知らないであろう言葉について、読み聞かせの前に「漢字入りイラスト」や「ホワイトボードに書く」などで教えておくことも良い。例えば、「黄金姫」の絵本の読み聞かせでは、最初に園児が知らないであろう「黄金」の説明をしてから始める。「ふくろうの染物屋」の絵本の時は、まず園児が知らないであろう「キセキレイ」の説明は必須で、話の筋がよく理解できるような写真(体の色、頭の色等・カワセミ・キジ・ツル・キツツキ)などを印刷して、説明してから絵本を読むと、園児たちの理解を助ける。そういった一工夫が相乗効果を生む

 

 

 

3 漢字入りイラスト

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〇実施の狙い

 イラストと漢字を同時に見ることで、無意識的に言葉(漢字)を頭に入れられるようにすること、また、よく知っている事柄を題材にすることで、漢字へのハードルを下げることが狙い。

 

〇概 要

 園児が知っている事柄に漢字を併記したイラスト24枚を、2回(1回/時間、12枚)に分けてホワイトボードに貼っていき、イラストについて自由に発言してもらった。

 一部は難解なものまで混ぜて、名詞を中心に、形容詞、動詞も少し織り交ぜた。例えば、「曜日」の「曜」は、普段目にする機会が無くなっている昨今、習った折に書くのが難しいことから、見知った文字となるようにあえて入れている。あわよくば、部首や旁の共通点・違いに気が付いてくれたらいいなという期待も込めている。

 また、一通り見せたあとに、それらの漢字が読めるかクイズにして聞いた。

 更に定着させることを狙って、授業で使った後ラミネート加工して教室に置いた。漢字には振り仮名を付けた。

 

〇成果・課題

 一度にたくさんの文字を紹介した為覚えられるかな?と思ったが、見てすぐに答えられる文字が多い。復習時には多くの文字が読めた。このことから、一度理解した漢字は記憶に残りやすい。

 

 園児たちの反応は以下の通り。

①ある園児は「蟻」を見て、「ケガと似てる。」と言った。どこかで見知った「怪我」が、蟻のつくりの下半分の「我」とリンクして思わず口走ったようであった。

②「時計」のイラストを見て、ある園児は「みじかい針の中に豆がある。」と言った。(このブログをご覧になっている皆様の中で、上記掲載の「時計」のイラストを見て、「短針の短」から「豆」を取り出して意識できたでしょうか?幼児がいかに文字の形に注目しているかが分かる出来事だった。)

③「お鍋」など、「かねへん」の漢字では、園児たちから「金(きん)や。」と、すぐに声が上がった。「かねへん」は何故か子どもは記憶しやすいようで、必ず反応があった。

④草冠の漢字も、園児たちから「くさかんむりや。」と、ほぼ100%反応があった。

⑤「月」、「星」、「空」あたりは、本当に見た瞬間、園児たちは覚えた感じだった。

⑥「太陽」、「赤ちゃん」、「卵」も園児たちは好きなようで、すぐに覚えて記憶にも残っていた。

⑦馬の絵柄を見せて「尻尾」と書いたら、園児たちは「お尻や。」と、前週見せたお尻の漢字を覚えていたことが判明した。園児にとって、尻尾とお尻のイメージは合いやすいのだろうと思う。

⑧「鳥」と「馬」がどう違うのかと、4回目の授業あたりから園児たちに毎週聞かれた。

⑨「島」を園児たちは区別が出来る。その証として、名前に「島」と「嶋」の漢字が付く子がクラスにいたのだが、「山へんに鳥」なのに「しま」と読むので、園児たちから「先生、字間違ってんのとちゃう。」と囁かれるようになった。子ども達がしっかり漢字の見分けが出来るようになってきたと感じた。

⑩園児たちに「水族館」の漢字&絵柄を見せた後、前の週に「家」をやったので、試しに「家族」と書いてみたら、ある園児は「かぞく」と読むことができた。覚えた漢字を組み合わせて推測したのだろうか、大変驚いた。

⑪イラストを見ていたある園児が、「茶碗」と「お椀」の「偏」の違い(碗と椀の石と木の違い)に気が付き、「分かった!意味が違うんや!!」と答えた。「漢字は意味を表している」という本質を捉えた上、偏の違いと実態とを結び付けて理解することが出来た。

 

 

 

 

4 対義語・類義語と漢字入りイラスト

〇実施の狙い

 「3 漢字入りイラスト」の狙いに加えて、園児たちが知ってる言葉で、語彙力が広がるようにちょっと難しめのも入れて、組み合わせ、連想ゲームのようにして、より多くの言葉(漢字)を頭に入るようにした。

 

〇概要

1.対義語

 「高いの反対は何でしょうか?」と言いながら、ホワイトボードに「高い」と書いて問題を出して、園児から「ひくい!」と答えが出たら「正解です!」と言って、「低い」をホワイトボードに書く。これを5組10語、書き並べた後、漢字だけを10語順不同に空いているスペースに書いて、「では問題です。『高』は何と読むでしょう?」と、園児たちに聞き、答えてもらった。(「反対言葉」の図参照)

 

2.類義語

 「今、冬で寒いから、寒いの反対は?」と聞いて、「暑い」を引っ張り出した。ただし、「あつい」は、「熱い」も「厚い」もあるので、「暑い」は「ここにお日様がありますね。だからこの暑いはお日様が照って思わずうちわで仰ぎたくなるような時に使います。」、「熱い」は下の「れっか」が、「火」を表してるので、「触ったら熱い、『あつっ』って思わず声が出るような時、熱々おでんなんかに使います。」と、漢字を使うことで、正確な使い分け・意味・語彙を同時に教えた。 

 

〇成果・課題

  対義語では、先生が園児にこそっと答えを教えていたのもあったが、多くの園児は自ら考え答えていた。園児達は思った以上の吸収力を発揮していた。

 類義語でも、園児たちは、連想ゲームのように楽しんで、間違いながらも正解を当てていった。

 

 

 

5 実物体験

〇実施の狙い

 知らない語彙が出て来た折に、直接目で見て触れる体験が出来れば、確かな「自分の知識」として記憶出来ることから、可能なものは実物を持参するようにし、不可能なものでも分かりやすい写真を使い、園児が想起しやすいようにした。言葉(漢字)と、それに対応する実体や経験との結び付きを良くすることが狙い。

 

〇概要・成果・課題

 実体に触れてもらった後、豆知識を、また写真を見せた後で漢字の成り立ちについて話をすることで、知識が広がるようにした。また、話しながら単語(社会で、一般的に漢字で表記されているものは漢字で)をホワイトボードに書いて行くことで、少しでも印象に残りやすいように行った。

 

① 藁(わら)

 稲藁の束を、実際に触れてもらった。

 『三匹の子豚』はイギリスのお話であること、藁と建物に関する日本とイギリスの生活スタイルの違いなどを話した。

 園児全員が初めて藁を見たということで、大騒ぎしながら喜んで触っていた。

 

② 竹(たけ)

 節が2つ残っている竹の縦半分に割ったものを、実際に触れてもらった。

 節分にちなんで、「節」と「季節」の話、「節分」と「立春」の関係、春だけでなく、現在でも「節分」は季節ごとに年に4回あることなどを話した。

 園児全員が初めて竹を間近に見たということで、とても珍しがっていた。

 

③ 瓦(かわら)

 瓦を実際に触れてもらった。瓦屋根の写真も印刷しておき、瓦の役割などを話した。

 「重たい!」「手が黒くなるね!」など、実際に触れてみないと分からないことを園児たちは体験した。

 「瓦」を知った途端「瓦」が見えるようになり、建物の庇を見て、「ここにも瓦がある!」とはしゃいでいた。

 

④門、門扉、閂の写真

 門構えの漢字は、比較的漢字の成り立ちが理解しやすいと考え、「門」と「門扉」と「閂」の【写真】と、門構えの【漢字】をあらかじめ数枚A4に印刷したものを使って、『門構えの漢字』の成り立ちについて話した。

 成果は大きく以下の2点が上がった。

 一、 「モノの見た目」から漢字を予想することが出来た。

 二、  園児全員が漢字の成り立ちを理解出来た。

 まず、それぞれの【写真】を見せて少し説明をした後、ホワイトボードに「門」の【文字】を書き、「それでは、この(写真を指して)“かんぬき”はどうやって書くでしょう?」と問題を出すと、挙手で最初に出て来た子が正解の線を書き足せた。

 そこから、「開」「閉」を教えた。その際、ある幼児は「開」の成り立ちを理解し、とても喜んでいた。

 反省点としては、「閉」の説明で、「閂が開かへんようにこういう風に押さえて…」と「押さえる」を強調した為に、読み方の予想を聞いたら「押さえる!」と答えられてしまい、園児たちを混乱させてしまった。

 無意識に覚えてもらうことを目標にしていたので、言葉の選択にもっと注意を払うべきだった。

 

 

 

6 しりとり

〇実施の狙い

 しりとりの利点は、確実に幼児が知っている言葉が並ぶ点で、語彙力を楽しみながら高めることができる。

 

〇概 要

 席順でしりとりをしてもらった。出た言葉をホワイトボードに書き上げた。

 また、状況により授業の最後に一枚の用紙に転記して、園児が帰るまでにプリントとして配った。再現のプリントを配ることで、途中に漢字で表わされた言葉が入っていても、前後の言葉からの推測や、発言者を思い出すことで、その漢字をクイズ感覚で考えられるようにすることが狙いであった。

 

〇成果・課題

 しりとりは園児皆とても楽しんでくれ、「またやりたい」というリクエストの声も多い。

 課題としては、一人、「最後に『ん』が付いたら負け」というしりとりの基本ルールを知らない子がいたことである。思ったより時間が掛かかること。また、次に何を言おうか誰かが考えていると、「〇〇は?」とアドバイスし合っているのだが、園児間の語彙力に歴然とした差があった

 

 

 

7 漢字と絵を組み合わせたカルタ

〇実施の狙い

 遊びの要素があり、園児達が楽しんで実践出来る。そして無意識に絵と漢字を脳内でリンクさせ、語彙力を増やすことが狙い。

 

〇概 要

1.食材カルタ

①  スーパーの広告から食材の写真を抜き出しカルタを作成した。

② 4~5人毎の3グループで行った。

③ 絵札は各24枚とした。(写真データは無し。)

④ 商品の画像と商品名が分かりやすく併記してあるものを使った。

⑤ 商品名は、平仮名だけ、カタカナだけ、漢字交じりの3種類の物を用意し、どんな子でも取れるよう配慮した。

⑥ 価格は情報の邪魔になる為隠した。

(毎日の身近な食材を題材にすることで、今後の食事、調理、買い物に付いて行った際に陳列してある棚(食群)に興味が向くようになど、知識と実体験とを結び付けられる一助になればと考え、食材を選択した。

 

2.しりとりカルタ(下記「漢字&絵」で1イラストを1枚の紙に印刷する。これは貼り出し用である。) 

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①最初に漢字と絵を併記した23枚のイラストをホワイトボードに貼りだし、空いているスペースを使って、例えば漢字の「狸」を書いて「何と読むでしょう?」と問題を出す。

②園児たちは、自ら進んで23枚の中から「狸」の文字を探し、絵を見て「たぬき」と答える。このように何度か絵と漢字を一致させる練習をしたあと、サイズを縮小し絵札(しりとりカルタ絵札用4分割・振り仮名無し)にしたもので、カルタを行った。(文字を見る練習にもなる。)

③読み札は、「狸」、「狐」などと、単語そのものだけを書いたものを23枚用意した。(白無地の名刺カードのようなものに手書き)

④カルタを2回したあと、「実はこれはしりとりになってます。どこから始めても必ずしりとりが完成するので、並べてみてください。」と言い、園児たちに競争するように早く完成させた。

 

〇成果・課題

1.全般

 遊びの要素があり、園児達はとても楽しそうに実践出来ていた。しりとりカルタは短くても「面白かった!」と言ってくれた。

 最初は絵を見て判断することも問題なく、大きく字を一緒に入れていることで、勝手に頭に入るようにと作っており、園児たちが「面白いな、またやりたいな。」と思ってもらえることが大切である。

 

2.食材カルタ

 取った札を見せてくれた子に、「この3枚やったら、●●のお料理が出来るね!」と言うと、「うん!」と目を輝かせて喜んでいた。

 課題としては、たくさんの札が取れる子どもと、ほぼ取れない子どもとの間で大きな差が生まれてしまったことが挙げられる。取れない子どもの中には泣く子もいる。

 また、グループによっては、毎回「自分が取った」と2,3人で揉めてしまい時間が掛かった。「指先だけでも下に入っていたらその人の札」など、最初にカルタのルールを言っておくべきだった。

 

3.しりとりカルタ

 先生方が園児たちを上手くサポートしたこともあり、とても早く取ることができていた。

 何度か遊べば、絵柄の無い文字だけの絵札であっても相当取れる(順に並べられる)と思うので、追加で作ってみたいと思っている。

 

 

  

8 文章を声に出しながら、ホワイトボードに漢字のみを書く。

〇実施の狙い

 園児たちの漢字の理解度を見つつ、その反応を見て臨機応変に漢字を書き出し、園児たちの語彙力を増やすことが狙い。

 また、物の準備無しに取り組むことができる。

 

〇概 要

 文章を声に出して読みながら、ホワイトボードに漢字のみを書きつけた。例えば、「玄関で鍵を開けて、靴を脱いで上がりました。」などのように声に出しながら、「玄関、鍵、開、靴、脱、上」と書いていく。

 そして園児たちの答えを拾い上げていく。

 

〇成果・課題

 園児たちの反応は様々で、以下の通り。

①「美味しい」と書くのを見て、「羊がある。」と言った。

②「歯」を見て、「止まるがある。」と言った。

③「挑戦」を見て、「桃と似てる。」と言った。

④「嬉しい」を見て、「女と喜ぶや。」と言った。

⑤「偉い」を見て、「偉人の偉や。」と言った。(偉人伝の書物でも見た事があるのだろうか。「いじん」と読んでいた文字が、「えらい」とピッタリ合わさった瞬間の言葉だった。)

⑥ 大人しかった子が、「楽」を見て、自分から前に進み出て来て、「木がある」と教えてくれた。

⑦「小学生」を見て、「学ぶが入ってる。」、「生きるもある。」と言い、また、「【字】と【学】はどう違うの?すごく似てる。」と質問して来た。

⑧ 何かの文字に「【と】と似てる。」と反応した。【上】を見て、「【止】に似ている。」と言ったのだった。「すごい!ちょっとだけ違うねん。よく分かったね!【と】は一本多いねん。」と【止】を書いたら、「【しょう】と似てる。」と返って来て、「あ、お正月の【正】?すごい!この上にもう一本来るねん!」という具合に、似てる漢字の連想を披露してくれた。

⑨「母」を指し示し、「お母さん」・「はは」と答えた。「はは」は教えてなかったので、どう「はは」に辿り着いたのか興味が沸いた。

⑩全くの初見の漢字であっても、全員の園児が聞きながら書かれた文字を記憶して、後から見て(指し示されて)読める割合が増えた。

⑪「支度」、「お健やか」といった概念など、現段階で園児が言葉とイメージが一致できない言葉(認知できない言葉)は、記憶できないので読めない。(覚えられない。)

 

 

 

9 知育時計

〇未実践のものである。

 就学前教育施設アンケート結果の中で、小学校の先生が「時計を読めるようにしておいて欲しい」というのもあり、就学前施設で知育時計を導入したら良いのではないかという提案である。

 ネットを検索すれば、知育時計の文字盤のダウンロードが無料でできるのが多くある(写真は一例)。

 

 なお時計も、「時間」「時刻」と、漢字で書いた方が意味がよく分かる。「7じ7ふん」より、「7時7分」の方が、意味が取りやすい。「3時半」も「3じはん」では何のことかよく分からないでしょう。

 先ほどの漢字イラストの一例で、園児には、「長い針、長針とも言うねんけど。」のような感じで言う要領となる。

 

 

 上記の1~8の取り組みについては、何度も繰り返すことが大切です。

 何度も聞くことで言葉の意味と使い方を覚えます。そして「聞くだけ」と「聞いて書いたのを見る」、とでは、「聞く&見る」ほうが圧倒的に情報量が増えて、学びに有利です。もし知らない字やモノでも、絵を見て「あー、あれか!」と思えるようになるのです。

 「聞くと見る」で語彙力を向上させ、その上で「見る」を「ひらがな」より効果的な「漢字」を使った教育となります。

 

 

 

 


Ⅲ 時間配分等

 それぞの取り組みについての時間配分の例です。

 1回につき約1時間で実施している。

 

〇例1

①出席取り(約10分)

 2回行った。

 名前のカードはシャッフルし、順不同で行った。

②絵本読み聞かせ(約20分)

 2回読み聞かせ、3回目は一緒に読んだ。

③女の子の絵を漢字入りで大きくホワイトボードに書いた(約15分)

 幼児に馴染みのある言葉を選んだ。

 女の子の絵を描きながら、「目」の位置に文字で「目」と記入する要領で、絵と文字を同時に書いて行った。

④今日の漢字のクイズ(約10分)

 今日の漢字をホワイトボードに書き、クイズの様に自由に答えてもらった。

 

〇例2

①出席取り(約5分)

 1回行った。

②絵本読み聞かせ(約15分)

 2回読み聞かせ、3回目は一緒に読んだ。

③実物体験(約10分)

【藁】について

④先週の漢字の復習(約5分)

 先週使った漢字をA4用紙に印刷し、フラッシュカードの様に見せて自由に答えてもらった。

⑤漢字入りイラスト(約15分)

 12枚をホワイトボードに貼り出しながら、皆に自由に発言してもらった

⑥今日の漢字のクイズ(約10分)

 

〇例3

①出席取り(約15分)

 1回行った。

②絵本読み聞かせ(約15分)

 挿絵にコオロギと蜘蛛が出て来たことから、ついでに足の数についても触れた。

③今日の漢字のクイズ(約5分)

④しりとり(約25分)

 

 

 

 


Ⅳ 全般を通しての園児たちの反応等について

 

 上記事例で、実施された方等から見て、授業全般を通しての園児たちの反応について、列挙しました。(個々の事例はそれぞれに記載)

 

1.最初は、「漢字なんか分からんもん。」と伏せて寝ていた子が、あることを「理解した」のをきっかけに、積極性が出て来た。分かる文字は大きな声で教えてくれ、「絵本をもっと読んで欲しい。」とせがむようになった。

 

2.他の園児と比べて、特に語彙力が高いようには感じなかった子が、途中からどんどん積極性が出て来て、カルタに再チャレンジしたいと主張して前回を上回る枚数を取って喜んだり、質問が増えたり、もっと絵本を読んで欲しいと希望を述べるようになった。

 

3.語彙力の豊富なある園児が、しりとりがまたやりたいと強く希望していた。彼は「だって、ここ(園)ぐらいしか、しりとりが出来へんから。」と言っていた。印象に残る言葉であった。

 

 

4.園児が「時計」のイラストを見て、短針の「短」から「豆」を取り出したが、大人が果たしてそのように意識することができるのか。このことは、幼児がいかに文字の形に注目しているかが分かる。

 

5.全くの初見の漢字であっても、全員の園児が聞きながら書かれた文字を記憶して後から見て(指し示されて)読める割合が増えた。うまく成長のスパイラルに入ったなと思った園児は、「玄関」、「褒(める)」などでも記憶力を発揮し、初見で読めた。

 

6.数回以上取り組んでいくと、園児たちは私達の予想よりもずっと漢字の知識や感性が高まり、ホワイトボードでの書き出し等での初見でも読みこなしてしまうことに驚いた。

 そして興奮して、「みんなも、こんなにいっぱい漢字読めるなんてすごいと思わへん!?」と園児たちに言うと、「え、全然。」と真顔で返って来てさらに驚いた。これは園児たちが、多くの漢字を読めることに違和感なく、負担なしに自然と記憶していたことを示すものと思う。

 

7.この取り組みでは、1、2回行っただけでは、効果は限定的であり、繰り返し行うことが大切である。そのため家庭での読み聞かせといった協力があると語彙力は大きく伸びる。また園内でのひらがなと漢字の併記など日々の生活の中で、語彙力を向上させる工夫も求められる。

 

 

 

 

 


Ⅴ 感想等について

 

漢字教育・漢字遊びの実践について、園などの感想・意見等は以下の通りです。

 

1.全般的な感想について

①私達大人が思っている予想を遥かに超え、園児達はすぐに漢字を覚えることができ、園児の語彙力が向上した。

②園児達は、多くの漢字を読めることに違和感無く、負担無しに自然と記憶していた。

③当初から園児達の語彙力の差もあり、その差を埋めることが難しかった。

④一部の園児は、家庭の協力もあって、その園児の語彙力が急成長していた。

⑤園児たちはとても楽しそうに遊び、結果として学んでいた

2.カルタでの漢字遊びを通じての意見等について

 園児たちは何個か漢字を覚えることで、違う漢字でも横のつながりの理解がすごく速くなったり、推測する力に加速度が付くことが分かった。

 例えば、カルタについて「園児たちは絵を見てるだけ。漢字はやっぱり早い。あまり意味が無い。」と思う方もおられるかもしれませんが、語彙力向上に取り組むのであれば、単純な絵だけあるいはひらがなではなく、漢字を混ぜたほうが、園児たちの伸びは著しいと思う。

 また、就学前教育施設等職員アンケートで、小学校教諭のある意見に、「詰め込み教育」や「早期教育」は反対的なものがある。カルタでは実際、園児たちは絵だけを見て札を取っていたと思うが、それ故に、漢字を併記するだけで、絵と漢字を脳内でリンクして勝手に覚えるとなれば、詰め込み教育でもなく、負担の無いまま漢字を覚え、効率的な方法だと思う。

 

 

3.その他意見等について

①園児たちは漢字での遊びを通じて、全部の文字は覚えられてなくても、どれかは必ず覚えている。漢字表記する数が増えるほど、その子その子により、覚えている数も種類も増えてくる。

 忘れてしまっても全然構わなく、もちろん間違うのも同様である。園児たちは、見知った字と関連付けて、「〇〇と似てる」「〇〇って書いてるの?」と聞いて来るのだから、ほぼ合っている。おぼろげでも覚えており、頭の引き出しから取り出せるという意味で、大きく成長していることを感じる。

 言葉を漢字表記すると、モノの名称に意味を見出しやすく、理解と定着がしやすいのではないかと感じた。

 

②保育所や幼稚園の先生は、普段使う言葉を、幼児用に簡単な言葉で言い換え過ぎな傾向にあると感じる。それでは新しい言葉は覚えないし、小学校に上がった時に使用する語彙の落差が大きくなる。そのことについては、就学前教育施設等職員アンケートの結果が物語っているのではないか。

 その易しく言い換えた言葉と併用して、大人が普通に使う言葉も一緒に言う。同時に違う言い回しの同義語をさらっと言う、そのことを端的に表した熟語をスパッと言う、余裕があれば書いてあげると、幼児の語彙力は増えていく。

 

③幼児がはっきり知ってるモノ・実体験を漢字表記してあげると、就学前でも学習指導要領の習う学年に関係なくどんどん覚える。そういう所を入り口にして、子どもたちが「漢字簡単やな」と思ってくれたら、勝手に学んで覚え、成長のスパイラルに入っていく。そこを狙いにして取り組むべきである。

 

④漢字で教える教育を実施して、石井勲氏の著書に記載されている「幼児の漢字教育は“適時教育”です。幼児期が、一生のう ちで最もやすやすと漢字が覚えられる唯一の時期で、この時期を外すと漢字学習が困難になります。」の中の、「最もやすやすと漢字が覚えられる唯一の時期」というのが本当であると実感した。 

 

 

4.小学生(低学年)の取り組みの一例について

 小学生一年生のある子どもの教科書(国語だけ)に、ひらがな表記の文章に振り仮名ならぬ「振り漢字」を付けた。そうすると、その子どもは勝手に漢字が読めるようになっていった。不思議なことに、たったそれだけで、巷にあふれる漢字を一年間で大分読めるようになっていた。

 

 語彙を増やすのに一番手っ取り早いのは、まずは普通に漢字表記すること、だと思う。

 

 なぜなら漢字表記した方が意味が分かりやすいものが多いからである。どの教科でもその効果は高いが、理科を例に挙げると、「しょっ角」、「方いじしんのはり」、「土しゃ」、「よう岩」、「えきの先(液の先)」など交ぜ書きやひらがな表記は意味が分かり辛く、漢字を習う度に2度も3度も覚え直さないといけない。勿体無いものである。

 小学三年生は、「えき」と言われたら「駅」が思い付くであろう。そもそも三年生では「液」と言う言い方自体使わないであろうから、液体の説明を受け、それを「液」と呼ぶと漢字で教えてもらったらすんなり新しい語彙として吸収できるのではないか。

 習ってない漢字を「子どもが書く」のは「ひらがな」でいいとして、大人は「土砂」等、最初から漢字表記して、振り仮名を振るなど併記して教えてあげた方がかえって親切だと考える。当たり前だが、海外では単語を教えるのに、最初から子供にも大人と同じスペルで教えるであろう。今の取組みでは、むしろ子どもの負担が増えていると、感じざるをえない。

 

 

 

 


Ⅵ まとめ

 幼児の漢字教育は、漢字遊びでした。

 

 遊んで楽しみながら、自然と漢字、言葉を学び、語彙力が向上する幼児たちを見させて頂きました。

 多くの園がこの取り組みを評価しています。ある園では「ひらがな」と「漢字」の表記を行うことから実践を始めています。

 

 この漢字を使った語彙力向上の取組みは、様々に形はあるにせよ、特に英才教育に力を入れている方々の多くは既知のことです。

 ただ、大抵の大人の方々は知らないことは勿論のこと、知ったとしても、子どもに「ここまでしかできないだろう。必要ない。」と、自分たちの感覚を押し付けているなと感じます。それは結果として、学びの基礎力の差が幼児の段階で大きく生じ、その後の人生に大きな差を生んでしまいます。

 

 それは大変残念なことです。

 

 子どもは自分で成長できる環境を選ぶことはできません。大人が責任をもって、より良い教育環境を提供することが求められます。

 

 この漢字遊びより良い教育環境の一つと考えます。

 

 しっかりと、語彙力向上の取組み・漢字遊びが普及するよう取り組んで参ります。

 

 なお、この事例では、「漢字は読めればいい書けなくてもいい。何なら意味さえ分かれば良い。」という観点で行われていることを留意下さい。

 

 

 


Ⅵ 関連リンク

 

(追記 2022年7月16日)